
涙嚢疾患とは、涙が流れていく通路(図1)の部分に閉塞が起こったために目ヤニや涙がつまって細菌感染を起こすもので、先天性と後天性の2種類があります。
涙が大部分が蒸発してしまいますが、一部は結膜や角膜を潤したり、まばたきなどで眼頭の方に運ばれます。そして、まぶたの淵にある小さな穴に入り細い管を通って眼頭の奥にある涙嚢に入り、鼻涙管を通って鼻腔の中の下鼻道に抜けていきます。
先天性の場合、生まれつき、鼻涙管が下方に延びていく途中で中断され、閉塞しているため、ブジーというステンレスの細い棒を涙点から入れて閉塞部分を開放する治療を行います。先天性のものは生後まもなく主に片眼に症状が出ます。生後2~3ヶ月頃が最も開けやすく、半年以上経つと閉塞部の抵抗が強くなり、1回ではなかなか開けにくくなります。一方、大人の場合は、はっきりした原因は分かっていませんが、副鼻腔炎(蓄膿症)、強いアレルギー性結膜炎、外傷などによって起こると考えられています。まれに顔が変わるくらい腫れる急性涙嚢炎も起こるので注意が必要です。初期の場合なら柔らかいシリコンチューブを涙点から閉塞部まで一ヶ月近く留置する治療で約75%は治ります。この処置は外来で約10分で済み、傷も残りません。チューブを抜いた後に再閉塞したり、最初からチューブを受け付けない程に閉塞している場合は、涙嚢と鼻腔を直接つなげるバイパス手術を行います。この治療で約95%は治せますが、眼鏡の鼻あての部分に1.5cmほどの傷が残るのが欠点です。
通院で、出口を拡大する処置を2~3回すれば治ります。たびたび再閉塞するようなら、細いチューブを1~2週入れておけば確実に治ります。
ブジーという細い棒を通すだけでは一時的な効果しかなく、すぐに塞がってしまいます。幸い閉塞している距離が短いので、シリコーンでできた柔らかいチューブをおよそ一ヶ月入れておくと、だいたい90%はなおります。チューブはとても柔らかいので、黒目を傷つけることもありませんし、ゴロゴロもしません。外来の局所麻酔で、5~10分でできます。多少の皮下出血や鼻出血がありますが、すぐに消えますので心配ありません。皮膚に傷も残りません。抜くときは、目頭のチューブの端をつまんで引き出すだけですので、短時間で痛みなく終わります。これ以上閉塞部位が長くなると、チューブでの治癒率が大幅に悪くなるので、このくらいのうちに治療を受けることをお勧めします。
治療法は、閉塞部を開けてから、シリコーンチューブを3~6ヶ月留置します。少し難治例に入ります。チューブがあるうちはよいのですが、抜いたあとに再閉塞しやすいのです。もともと1mmにも満たない細い管なので、再癒着しやすいのです。でも、待っていても閉塞部位が長くなればなるほど、治癒率が下がるのですから、早めにチューブを入れるほうがよいと思います。チューブ留置は局所麻酔で20~30分かかります。
涙嚢の先の鼻涙管で閉塞しています。このまま放置した場合、涙、目ヤニが止まらないのはもちろんですが、強い菌が入り込むと急性涙嚢炎といって、顔半分が腫れるほどにもなることもあります。将来、白内障の手術を受けるときに傷口から菌が入る危険もあり、好ましいことではありません。治療法としては最初はシリコーンチューブ留置が勧められます。1回の留置で80%は治癒します(具体的な方法は涙小管─閉塞が4mm以下の場合"を参照)。もし再閉塞したら、再びチューブを入れるか、次の手術治療となります。
鼻涙管の閉塞が強固でチューブでは無理です。根治治療として、入院して手術が必要です。手術は、新しく涙嚢から直接鼻の中へ涙を流すバイパスを作るものです。具体的には眼鏡の鼻当ての所の皮膚を縦に2cmほど切開します。鼻の骨を取り除き涙嚢と鼻の粘膜をつなぎ合わせ、トンネル状の通路を作ります。手術時間は約30分です。
局所麻酔で可能ですが、両眼同時の人や手術が怖い人は全身麻酔にしています。皮膚の傷跡は心配するほど目立ちません。手術成績は98%が治癒します(鼻外法)。この方法と似た手術で、皮膚を切らずに逆に鼻の中からトンネルを作る方法(鼻内法)も行われています。この鼻内法は皮膚に傷を残さない点はよいのですが、鼻腔内が広い人にしか行えない点と、骨が厚い場合に時間がかかり(1~2時間)、成功率も大体80%と劣ります。現時点では、短時(20~30分)で確実に(98%)治せ、鼻腔内の状態に影響されずに手術が可能という利点から、私は鼻外法を勧めています。しかし、機械の発達や手術法の改良により鼻内法が増加するのは確実と考えています。
手術を受けるか迷っている間に、涙道の閉塞は悪化していく一方です。よく患者さんの心配を聞くと、ブジーであれほど痛いのだから、骨を削るなんでとても耐えられないといいます。全身麻酔含め、痛みをとる方法はたくさんあり、皮膚の傷も予想していたより目立たないという人がほとんどです。正確なインフォームド・コンセントも大切ですが、皮膚の傷や骨を削るといった刺激的な話を強調するのは、患者さんの治す機会を奪ってしまうのではないでしょうか。30分で98%治るのだという希望と手術を受ける勇気を与えるのが、インフォームド・コンセントの重要な点です。